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【ビジネスデザイナーインタビュー】デザイン視点で捉える社会的課題と利益の追求

1980年代まで週休2日制が浸透していなかったことをご存知ですか?
現在では珍しくない週休2日の働き方は、昭和の終わりまで当たり前のことではありませんでした。
ターニングポイントとなったのは、ATMの導入です。これにより、銀行の窓口業務が休みでも、社会の経済活動が維持されるようになり、金融機関における週休2日制が実現しました。それに追随するかたちで、社会全体にこの制度が広まったのです。
このATMは、1900年生まれのオムロン創業者である立石一真が構想したもののひとつです。彼は、労働のかたち、社会のかたちそのものをデザインしたともいえるのではないでしょうか。
現在のオムロンにおいても、社会のデザインに挑戦しながら、利益を追う仕組みを作るビジネスデザイナーが活躍しています。

オムロンから生まれた、社会的課題の解決に挑む事業創造プラットフォーム「IXI(イクシィ)」の組織や活動内容に迫るインタビュー企画。今回は、IXIのビジネスデザイナーである本田さんと立石一真 創業記念館を訪れました。
ここは、オムロンの創業者である立石一真の居家と庭園を改修し、創業者と現代の社員が思いを共有する場としてつくられました。立石が実際に過ごしていた空間に、彼の手記、会議録、手に取った書籍などがそのまま残されています。
社会的課題を解決し続けながらオムロンをグローバル企業に育てた創業者の息吹が感じられるこの場所で、創業者と現代のビジネスデザイナーの邂逅から、社会をデザインすることと、利益追求の関係性について紐解きます。

この記事の登場人物
本田 さん:ビジネスデザイナー。外資系デザインファームの日本支社にてデザイナーとしてのキャリアをスタート。コンサルティングファームにおけるデザインストラテジストを経てIXIへ参画。IXIのビジネスデザイナーチームをリーダーとして率いる。

組織名、役職などは取材当時のものです。

創業者 立石一真:技術者、経営者、そして“デザイナー”

本田:
立石一真は知れば知るほど面白く、掘りどころがたくさんある人物です。
技術者、経営者としての側面が取り上げられることが多い人物ですが、私は、彼はデザイナーでもあったと考えています。

1900年生まれの彼が、自動改札機やATMを構想し形にしているんです。
ATMの導入により銀行は週休2日制を実現しました。その後、社会がそれに追随し週休2日制が広まり、戦後から今に続く社会そのものに大きな影響を与えてきました。

さらに高度経済成長のなか人口過密が問題になることを予想した立石は、人の動きの最適化を行っています。
車の通行量データから、信号の赤、青の点灯時間を調整する電子交通信号機を開発したことが、現在の渋滞の緩和につながり、駅では自動改札機による人の流れの効率化も行いました。

デザイナーは何かを作る時に、作るものがどんな未来につながるかを想像し形にします。未来を想像し、社会にどんな課題があるのかを捉え、必要なものを具現化してきた立石は、やはりデザイナーだったといえるのではないでしょうか。

社会をデザインしながら、企業を成長させる

本田:
優れた洞察力を持った立石は、未来を見通し、未来で起こりうる社会課題の解決に取り組む事業を次々と立ち上げていきます。彼は、「企業は社会の公器である」という考えを大切にしていました。

私がオムロンに入社して、一番驚いたのは、社員ひとりひとりが行動の基準を「社会的課題の解決につながるか」に置いているということです。企業の理念が社員にちゃんと浸透していることを、肌で感じるんですよね。

オムロンは社会的課題の解決に取り組む会社であるという大前提はありながら、2名の社員と始めた立石電機を世界のオムロンへ成長させたのは、立石が、奉仕の精神とともに、強烈な商売っ気ももっていたからこそだと思います。

社会のニーズを拾い、自らの持つ技術を掛け合わせ新しい解決策を届ける。そこから得た利益が原資となり、新たな研究開発に投資をし、次の社会的課題に取り組んでいく。
社会的課題に目を向け、変革をもたらすことと、事業を拡大することを矛盾なく実現してきた人物です。

私もビジネスデザイナーとして、社会をデザインすることと、そのうえで利益を追求することの両立を常に考えているので、そういう点でも彼に共通項を見出しています。

創業者と社員が向き合う空間である立石一真 創業記念館では何を感じられたのでしょうか。

本田:
何かを「好き」という直感を大切にする人でもあったのだと感じました。
映画好きが高じて太秦(京都)に工場を作ったり、奥様と絵画を描いたり、唄を楽しんだり。好奇心にも溢れた人物だったのだと思います。

趣味を楽しみ、家族との時間を大切にする。そういう自分自身の生活を充実させる意欲、自分も幸せであることへの追求が、社会的課題に取り組む原動力になっていたのだと感じました。

立石一真が暮らした空間で感じた「好奇心」

本田:
記念館で立石の人生を追っていくと、直感や好奇心が起点となり、思わぬ偶然によって新しい発想が生まれ、一見関係がないこと同士を結びつけることで新しいビジネスにつながっていることもありました。

デザインには直感とロジカルさが必要であるとよくいわれますが、立石はそのどちらも持っていたのだと思います。それが制御機器、社会インフラ、ヘルスケアといった領域を越境する発想を生み出す原動力になったのではないでしょうか。

自分たち「も」幸せになっていい

本田:
何かを「好き」という気持ちや、「好奇心」には、「自分も楽しいからやってみよう」であったり、「自分も幸せになろう」という利己の要素も含まれています。これは立石が手書きで遺した社憲からも感じられます。

「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」
中央にある「われわれの生活を向上し」というところに、私たち自身と世界の両方が含まれています。
奉仕の精神を大切にした立石ですが、同時に自分の幸せも大切にしていたのだと思います。

私たち自身の生活も豊かになっていくことと、よりよい社会にしていくことは、繋がっているんです。

ソーシャルデザインとビジネスデザイン

社会的課題を解決して儲けるという風に表現すると、不謹慎だと責められるかもしれません。ですが、何かを生み出し、継続して維持するには何かしらの原資が必要です。
その出所が、税金なのか、事業そのものから得た利益なのかという違いに、善悪はないのではないでしょうか。

本田:
よりよい社会にするために、社会的課題に挑戦すること、そしてその仕組みを事業として成立するようビジネスそのものをデザインすること。
私たちIXIのビジネスデザイナーは社会的課題の解決にビジネスとデザインの力を使っています。

社会に対する使命感も持ちながら、同時に自分たちも幸せになることを諦めない。この気持ちは創業者の立石一真とつながる部分だと考えています。

立石は「最もよく人を幸せにする人が最もよく幸せになる」という言葉も遺しています。
利他的であり、利己的でもあるこの言葉は、どちらか一方ではなく、どちらも諦めない貪欲さが隠れているように感じませんか?
   
社会を幸せにするデザインを実現することと同時に、自分たちも幸せになることを追い求めていいんだと言われているように感じます。

まとめ

京都の御室(おむろ)と呼ばれる閑静な住宅地に、一代でグローバル企業を築いた創業者と、現代の社員が向き合うための空間があります。オムロンの社員はこの創業記念館で、立石一真が何を考え、何を感じていたのかに思いを馳せることで創業者のDNAを受け継いでいます。

今回は、IXIのビジネスデザイナーである本田さんに、御室の地でオムロンを創業した立石一真の足跡をたどり、ソーシャルデザインと利益追求がいかに両立するのかをお伺いしました。
自らも幸せになりながら、社会をよりよくしていくビジネスデザインに興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、一緒に挑戦しませんか?

*立石一真 創業記念館は、社員限定公開の施設となります。
 一般の観覧は受け付けておりませんので、ご了承ください。


オムロン株式会社 イノベーション推進本部(IXI)のVision(パーパス、チャレンジ、哲学)については、以下の公式ページをご覧ください。