共創を通じて生み出す、カーボンニュートラルへの新たな一手
オムロンから生まれた、社会的課題の解決に挑む事業創造プラットフォーム「IXI(イクシィ)」の組織や活動内容に迫るインタビュー企画。今回は、カーボンニュートラル実現に向けて、IXIがアクセラレーターとして事業の推進を支援している「蓄電PPA事業」について、事業誕生の背景から展望までを、事業の中心人物である3名に語っていただきました。IXIとの共創により、社会にはどんな変化が起こるのでしょうか?
世界一、再生可能エネルギーが効率よく使える国を目指して
はじめに、「蓄電PPA」という事業について教えていただけますか?
俣野:
まず、「PPA」というのは、Power Purchase Agreement(電力販売契約)という太陽光発電の導入形式のことで、お客さまの土地を借りて太陽光発電を設置し、使った電力分だけお金をいただくという仕組みです。我々が取り組む「蓄電PPA事業」は、そこにさらに蓄電池を設置して、付加価値をつけていこうというもの。蓄電池が入ることで電気代の節約はもちろん、災害時にも電気を使えたり、うまく充放電することでマネタイズできるようにもなる、そんな広がりを持つ事業です。OFEでは蓄電池の種類の検討や設備の導入工事から、サービスの運営とシステム管理まで行っています。
このテーマが解決する社会課題とはなんでしょう?
俣野:
太陽光発電というのは、どうしても昼間だけになってしまうので、足りない分は主に火力発電で賄われているんです。そこに蓄電池を活用すれば再生可能エネルギー比率も上がり、脱炭素に貢献できます。ただ、蓄電池も太陽光発電も初期投資に非常にコストがかかるので、初期投資なしで導入しやすいようなサービスメニューを提供するのが、我々の蓄電PPA事業です。
丸雄:
必ず実現すべきカーボンニュートラルですが、再生可能エネルギーを導入できるほどの資本力を持っている企業はまだまだ少数です。初期投資などのいろいろな課題がある中で、蓄電PPAのモデルを使うことで、大企業以外にも導入を進めていくのが目標です。
笹脇:
ビジョンとしては「日本を、世界一効率よく再生可能エネルギーを使える国にする」ことを掲げています。
それは確かに、社会が大きく変わっていきそうです。この事業テーマはどのようにして生まれたのでしょうか?
笹脇:
今後、太陽光電力の値段が下がっていき、そこに蓄電池を導入すれば、さらに電力が安くなる時代が来ると言われています。そこで、我々の制御技術をフル活用すれば、この蓄電PPAという事業を実現できるだけでなく、社会に貢献でき、かつまだ誰もやったことのない事業なので、チャレンジしてみたいと思ったんです。
異なる視点の掛け算でプロジェクトを加速
IXIは今回、事業の推進をサポートするアクセラレーターとして参加していると伺いました。
丸雄:
今回、OFEの中で検討が進んでいる話を聞いて、IXIでもすでに製造業のカーボンニュートラルをテーマに取り組みを進めている部分がありましたし、事業化検証に関するノウハウも溜まってきたところだったので、何か貢献できるのではと思い、支援を申し出ました。
どのような関わり方をしているのでしょう?
丸雄:
このプロジェクトではコンサル的な立場で入っています。ただ、コンサルはクライアントからフィーをもらいながらサービスを提供するという形ですが、私自身のマインドセットとしては、もうOFEの一員として関わっているようなものなので、そこが違いかな、と。
俣野:
その違いは明確に伝わってきますね。こちらの立場に身を置きながら考えてくれるので、やっぱり外部のコンサルとは全然違うな、と。もう半分こっちの人間かな、という感じで(笑)。
なるほど。それは大きな違いですね。
俣野:
例えば、蓄電PPAは、再生可能エネルギーを最大限に活用するソリューションである確信はあるんですけど、じゃあ誰にどうアプローチしていくのかっていうことがよくわからない時、お客さんのリストを絞るところから一緒にやってくれるんです。たぶん外部のコンサルなら、そこまでやってくれないですよね。
プロジェクト自体はどのように進められているのですか?
丸雄:
事業化に向けて検証すべき項目を、IXIの過去のプロジェクトを参考にご提案していて、週一のミーティングでOFEの意見も伺いながら進めています。
俣野:
OFE側が事業にどっぷり浸かってしまってもがいているところに、IXIは過去の実績やフレームワークがあるので、我々にはない新しい考え方をインプットしてくれます。キャッチボールしながら進めている感じですね。
奥深い領域だからこそ、好奇心を忘れない
事業を進める中で出てきた課題はありますか?
俣野:
既存事業とはビジネスモデルが全く違うので、経営層に理解していただき、投資いただく必要がありました。ここは丸雄さんにかなり助けてもらいましたね。
丸雄:
エネルギー業界って非常に奥深い世界で、そこを理解しないことには蓄電PPAの事業も理解できなかったんです。皆さんに教えてもらったり、書籍を読み込んだりして、自分なりにちょっとずつ理解していきました。直近の課題は、この事業の価値訴求の方法や営業プロセスをしっかり作り上げていくことだと思っています。
笹脇:
この事業全体を理解するには、電力エネルギーを取り巻く制度やビジネスモデル、工場や製造業についての幅広い知識や理解が必要だと思っています。丸雄さんは自ら率先して勉強されてましたし、そこに面白さを感じてくれていたのかな、と。
課題もたくさんある中で、やりがいを感じることがあれば教えてください。
丸雄:
この領域は、事業の仕方も他の民間企業とは違う特殊な側面があり、そこを理解するのは大変な一方、知的好奇心を満たしてくれるので、やりがいにつながっています。あとは、分散型電力システム(※)に移行しつつある中で、様々なパラダイムシフトが起こって、これまでエネルギー業界にいなかったようなプレイヤーが続々と参入してくるといった大きい変化が起こっている業界なので、そういった方々と何か共創できないかと考えるのはワクワクしますね。
事業の成長を、自らの成長に
皆さんの、事業にかける想いを教えていただけますか?
丸雄:
まず、社会的課題の解決に自分が貢献できていることに、意義を持って取り組んでいます。そして、OFEが生み出している新しい事業に、IXIとしてもチャレンジし、協力していきたいなという想いもありますね。ゆくゆくは自分の事業を持ち、その事業を大きくしていきたいという夢があるので、仮に自分が事業責任者だったときに、どういう判断を下すのか、どういうことをやるのだろうかと考えながら、自分ごととしてやらせてもらっています。
笹脇:
ちょっとわがままですけど、私の目的は自分の成長です。自分自身が努力して成長しないと、このビジネスも成功しないと思います。成功すれば、後にこの事業を担う人たちが安定した経営もできますし。
俣野:
このビジネスを拡大することで将来世代に良い地球環境を残すことは、尊くて、大義のあることだと思っています。これまで10年くらい、なかなか事業が拡大せず、ずっと苦労してきました。でも、このビジネスモデルの変革ができれば、限られたリソースの中でもどんどん事業が拡大していく可能性があります。初めての試みに携わらせてもらっているやりがいを感じていますね。
道を切り拓いたぞ、という。
俣野:
そうですね。
丸雄:
蓄電PPA事業がしっかりと世に出て、多くの引き合いがくる状態にしたいです。外部環境としては追い風が来ている状態なので、この好機を逃さないように準備を進めていきたいと思っています。
"当事者意識を持った客観視"
アクセラレーターとしてのIXIの魅力や強みは、OFEの皆さんから見て
どんなところにあるのでしょうか?
笹脇:
事業の当事者として、この業界にどっぷりはまっているので、IXIから客観視してもらうことで、他のビジネスモデルとの比較ができ、注意するポイントがわかりました。経営面での理解にも非常に助けられています。言葉はちょっと矛盾しますけど、"当事者意識を持った客観視"できることがIXIの魅力だなと。IXIでは数多くの新規事業を検討されているので、様々な経験を皆さん積まれていることと、キャリアで入られた方も多いので、前職でのノウハウを持たれている方も非常に多くて。プロジェクト中でもいろいろな例え話を教えていただいたんですけど、参考になるものばかりでした。IXIとなら、事業の成功確率を上げていくことができるんじゃないかな、と。期待通りです。
俣野:
全く同感です。実はこのインタビューの後にも、IXIが企画してくれた、新規事業を立ち上げた他の案件の苦労した点、突破方法の共有会があります。僕たちだけでやっているよりも、事業化が加速しているのは間違いないと思います。丸雄さんがいなかったら今頃どうなってたかと考えると怖いくらいです。丸雄さんのためにも、なんとか事業を成功させたいというプレッシャーを感じ始めています(笑)。
共創していく中で、IXIのイメージは変化しましたか?
俣野:
最初は名前を聞いたことがあるくらいでしたが、いろんなキャリアの人がいて違った視点を持っているので、シナジーが生まれるな、と。OFEだけだと、基本的には同じような考え方で物事を言うので、ブレイクスルーしにくいですよね。こうやって違う視点を持たれていると相談もしやすいし、事業が加速していくなと思います。
笹脇:
私はIXIの創設当時から一応知ってはいましたが、一緒に働く中で認識が変わりました。IXI自体も事業を自ら立ち上げているので、いろいろと知見がある上で、我々のような事業部に寄り添ってくれるのは大きいな、と。
事業開発の成功確率を上げるために、社内外の様々な情報がIXIに集約されることは、オムロンにとってもメリットだと思います。
社外から来られた人とプロパーの人たちとが融合されているのもIXIの魅力ですね。
アクセラレーターとしてはどんなことを意識してますか?
丸雄:
やっぱり気持ちとしてはOFEの一員として関わっているので、言われなくても率先してやるし、自分で考えて実行しようとしています。
違う組織の立場なので、OFEからすると、どういう人なんだろう?というのはあったと思います。信頼を勝ち取るために、面倒くさい作業でもやってきました。でもそれはアクセラレーターだからというより、事業を成功させるためにという意識の方が強いですね。
OFEから見て、IXIのカルチャーはどんなものだと思いますか?
俣野:
僕らにはないところ。スピード感、論理的に物事を見る、わかりやすく客観的なデータを分析して説明してくれるとかですね。
笹脇:
情報収集能力が素晴らしいですよね。
"健全な領空侵犯"で学びあえるプラットフォームを
ここからは、IXI内の事業開発にも力を注ぐ丸雄さんに、IXIについてさらに深く伺いたいと思います。IXIが求めているのはどのような人材でしょうか?
丸雄:
これからエネルギー領域の旗の中で、いろんな事業を作っていきたいと考えています。新しい発想とか切り口で事業を作ることができる世界なので、一緒に事業を作ってくれる方たちにIXIに入っていただきたいです。
うまく進んでいる事業テーマを見ていると、当事者が経営者・事業家マインドを持っているかどうかが重要だなと感じます。目の前のタスクの締め切り、アウトプットに気を取られがちですが、新規事業の場合、次々と自分でマイルストーンを設定して推進していかないといけない。マイルストーンの置き方も、判断軸を自分で持たないとちょっとしんどいと思います。仮に自分が事業の責任者だった場合に、どういう事業にしたいかを考えられるようなマインドセットがあれば、非常にやりがいを感じる組織ですね。
スキルでいうと、どのようなものでしょうか?
丸雄:
自ら枠をはみ出すことですかね。コンサルみたいに、プロジェクトのスコープ、アウトプットを切って期待値を握っていくような仕事のやり方は、新規事業を創る上では、一切通用しないです。自分でアウトプットを設定し続けなればいけないし、身についた仕事の作法の再構築を求められます。
丸雄さんが働く中で意識していることとは?
丸雄:
アフリカの諺で「早く行きたければ一人でいけ、遠くへいきたければみんなで行け」というものがあるのですけど、新規事業も同じですね。フェーズ0とかフェーズ1なら、一人でできますが、やっぱりその先の事業を大きくしていくフェーズは、みんなで協力していかないとできないですよね。そういった意味では、自分のプロフェッショナリズムを持つだけではなくて、周りに自分はどう貢献できるのかを意識していますし、そういう意識を持っている方がIXIには多いと感じます。相手からサポートを申し出てくれたり、知り合いを紹介してくれたり、そういうのを率先してできる組織だなと。
IXIのバリューの中で言うと、何でしょうか?
丸雄:
「シェア」ですね。普通、失敗ってあんまりシェアしたくないじゃないですか。でもそれを率先してやってくれるんです。失敗をポジティブに捉えて、IXI内だけでなく、他の事業部にもシェアしていこうという心意気を持っているところが、IXIのバリューが体現されている良い面だと思いました。
他のベンチャーやコンサル会社と比べた時の違いや魅力はありますか?
丸雄:
IXIは、新規事業のいろいろなバリエーションが体験できる貴重なプラットフォームです。IXIの組織文化として、"健全な領空侵犯"というのがあります。例えば自分が担当していない事業テーマのミーティングに出ることが奨励されていたりするので、気になるテーマであれば顔を突っ込んで学ぶこともできます。そういうのは他の組織だとなかなか難しいのかな、と。あと普通は、既存事業の延長線上での新規事業っていう発想が多いですが、IXIみたいになんでもできる機会が提供されているプラットフォームは、なかなか無いと感じています。
健全な領空侵犯、面白いですね。具体的にどんな取り組みがあるのでしょう?
丸雄:
各組織の部門長から、インビテーションが来るんですよ。例えば、イノベーション戦略室の定例会に他の部署のメンバーを呼んで議論しますし、逆も然りです。トップの石原さん自らがそういうことを良しとしているのと、部門長たちもそういう意識を持って仕事されているので、特にハレーションは起きないですね。
言うのは簡単ですが、体現するのはなかなか難しそうです。
丸雄:
そうですね。でも自分たちで囲い込んでいても何もいいことは起こらないですし、IXIというプラットフォームをうまく活用するために、みんな必死だと思います。強制ではないのですが、時間があるときは話を聞くようにしています。部門長によってミーティングの進め方なども違うので、そこも貴重な体験だな、と。
丸雄さんが次にやっていきたいことはどんなことでしょうか?
丸雄:
この事業テーマを担当することになった2022年の初めは、エネルギー業界の知識などなく、全くの素人だったのですが、蓄電PPA事業をきっかけに中期経営計画の戦略立案にも関わらせてもらっているので、どんどんスコープが広がっている感覚はあります。次はM&Aなどにも挑戦していきたいですね。
オムロン株式会社 イノベーション推進本部(IXI)のパーパスや丸雄らが取り組む挑戦する事業領域については、以下の公式ページをご覧ください。