独自のアプローチで挑む、現場から経営に繋がるDXイノベーション
オムロンから生まれた、社会的課題の解決に挑む事業創造プラットフォーム「IXI(イクシィ)」の組織や活動内容に迫るインタビュー企画。今回は、IXIのデータ活用ソリューション事業部が進める製造現場のDXについて、その事業の詳細を事業の中心人物である4名に語っていただきました。
現場自らがDXを推進できる世界を作る
まずはじめに、この事業が生まれたきっかけを教えてください。
竹林:
当初は、あらゆるデータの連携ができれば、経営から製造の現場まで、一気にDXが進むのではという考えのもと事業の検討をしていたのですが、そこで現場の方々からいただいたのが、「そんな壮大な話より、本当に困っている実際の現場をまずなんとかしてほしい」という声でした。訪れた現場は、データの連携をするにはほど遠い状態で。その状況を見て感じたのが、何よりもまず、現場の方々が自分たち自身でDXを推進できる世界を作らないといけない。それこそが、私たちの使命なのではないか、ということです。その想いがもととなって、今のビジネスの構想が生まれました。
現場ではどんな課題があったのでしょうか?
河野:
特に中小企業の現場などでは、月次のレポート作成や工場の生産管理、データの整理などの作業のほとんどを、手作業でエクセルに打ち込んでいるところが多いんです。
竹林:
DXの流れで経営層の構想が変わるたびに、対応に追われた現場では逆に手作業が増えてしまうといった、本末転倒な状況でしたね。
河野:
DXを推進するときに、大企業が大きなムーブメントを作るのは大事なんですけど、国内の会社の99.7%は中小企業という中で、彼らが置き去りにされている現状に向き合わないと、DXは浸透しづらいと感じています。
階段を登るDXで、課題の本質に挑む
そんな課題の解決のために、現在どんなサービスを提供しているのですか?
河野:
ITのスペシャリストでなくても、現場の方が自分でITを使って改善していくことができるサービスを提供しています。現場の手書き帳簿を電子データ化したり、個々人がバラバラに表計算のソフトでやっているものを自動で集計したり、現場の人がツールを使って手作業を自働化するスキルを身につけてもらえるようなサービスです。
他社のDXのアプローチやサービスなどと比較した際の違いはどんなところにあるのでしょうか?
竹林:
現場での工数を減らしていく「現場DX」にフォーカスする中で、DXのためのツールだけではなく、現場の課題をどう改善するべきかを考えられる人材を育成する教育もセットで提供している点が、他のサービスとの大きな違いですね。
河野:
ツールに関しては、紙の情報をキーボードを叩いて打ち込む作業を自動化するためのプログラムを、自分たち自身で作れるソフトウェアを提供しています。プログラムをソースコードから作れるようになるには時間がかかりますし、誰でもできるわけではないので、ノンプログラミングで作れるものを用意しました。また、先ほど竹林さんが言ったように、ツールを提供するだけでは課題の解決にはなりません。忙しい現場の皆さんにツールを使いこなせるようになっていただくには、そのための教育が非常に重要なんです。
教育の面で工夫していることはありますか?
河野:
はい、教育においてもかなり工夫をしています。学び方は人それぞれなので、行動変容などの要素も考慮しながら伴走したり、ツールと教材を渡して「勉強してください」と言うだけでは成立しないので、上司を巻き込んで1年間のプランを我々のSEが一緒になって作ったりしています。そうすれば、数ヶ月後にはITの素人の方でも、それなりの専門的知識を持って業務改善を回せるようになり、経営層にもやってよかったと思ってもらえる。個別の改善が徐々に組織全体としての活動に繋がっていくという、階段を登るようなDXの推進ですね。お客さんの体験を的確に捉えて、体験の過程で何をしてあげたらいいのか、要素分解しながら検討して作り上げてきました。
そこでのIXIの強みはどんなところにあるのでしょうか?
今江:
ひとつは、オムロン自体が現場を持っていて、現場のリアルな課題が聞けることですね。教育プログラムも社内でフィードバックをもらいながら作ることができましたし、現場の方にとって何がいいのかを磨き上げられる環境があることが大きな強みかなと思います。
旗のもと、点を作り、線に繋げる
事業を進める中で、苦労したことはありますか?
竹林:
我々はモノをずっと作ってきた会社なので、最初はつい良いモノを作ることばかり考えてしまっていたんです。便利なツールを作って提供すればいいんじゃないかと。しかし、現状をしっかり見ていくと、モノだけでは一向にDXが進まない状況があるわけです。そこをリサーチしながら考えていったときに、単に道具を提供するだけでは、一時的な課題解決にしかならないと気づきました。
河野:
現場を徹底的に知るために1ヶ月ほど現場でリサーチをしたんです。そしたら、だんだん現場が何に困っているかがわかってきました。そこからツールと教育をセットで提供する重要さに気づいたんです。私たちが提供するのはツールではなく、現場の皆さんが自ら作れるようになる仕組みそのものなんだと。このサービスの価値をきちんと伝えて共感を得ていくというのが一番大変でしたね。
竹林:
新規事業を立ち上げる際は社会的課題と向き合いながら、我々が旗と呼んでいる目的に向かって世界観を構想し、そのためにしなければいけないことを点として挙げていくんですが、点を点で終わらせず、どう線に繋げていくかを考える部分も大変でした。結果的に、点を作るだけでなく、その先もイメージしながら進めていけたのが良かったと思っています。
縦と横への事業展開で日本中を変えていく
ここまでの実績や、今後の事業展開を教えてください。
今江:
製造業での導入実績でいうと、自動車業界や食品、半導体まで、幅広い業界で採用されています。また、今は製造業だけに限らず、それ以外にも広げていくという段階で、そこを金子さんに担当してもらっています。
金子:
やはり、これはすごく社会的意義のある領域だなと思っていて、今江さんが言ったように製造業に限らない話なので、パイが大きそうなところから順に提案していくというような活動をしています。やる気のあるメンバーばかりなので、一緒にどんどん横展開をしていきたいなと。また、今はサプライチェーンの方々を中心に提案していますが、エンジニアリング部門の方にも同じような構造的な課題があるはずなので、縦への展開として別部門の課題も解決していきたいと考えています。縦と横、それぞれで事業領域を広げられるような検討をしていきたいですね。
事業への意気込みを教えてください。
今江:
お客さまから「できるようになりました!」と言われることがあるんですが、その声を広げていくというのが本当に楽しみで。どんどん活動量を上げていきたいと思っています。1年後はまた違う景色が見れていると思うと、楽しみですね。
河野:
サービスも営業もシステムも、完全にゼロから作り上げて、やっと旅立っていくイメージです。非常に楽しいですね。
金子:
僕も「誰かの作業を効率的にしたい」という強い想いを持っているので、皆さんと同じように楽しみながら、チームで一緒にやっていきたいです。いろんな業界での反応を知ることも楽しみですね。前職で同じような課題を感じていたので、その10年後にこうやって自分自身が課題を解決して、日本中を変えようとしていることにやりがいを感じています。
イノベーションが起き続ける組織へ
IXIという組織の特徴を教えてください。
竹林:
「イノベーションが起こり続ける仕組み作り」をみんなが意識しているからこそ、お互いの知恵を掛け算して、学習し成長する組織になっているなと感じています。お互いの事業を加速し合っているんですよね。
金子:
僕を含めてコンサル出身者も多くいるし、プロパーの方もいて、お互いのできることが全然違うので、補完し合いながら、一人ではできなかったような検討ができています。
河野:
いろんなスタートアップの会社とのやりとりの中で感じるのは、IXIでは事業の可能性があったときに、経営陣の賛同が得られればすぐに投資をしてもらえることですね。会社の経営層と一緒になって進めていけるのは大きな違いかなと思います。
今江:
IXIという組織ができて、さらにその意識が高まったのもあるかもしれないですが、新規事業をやることに対しての経営層の理解があると感じます。新規事業って難しいじゃないですか。大体失敗するっていう前提で、いかに成功確率を上げるか、そのためにどんな仕組みが必要かとか、何をモニタリングするかとか。気合いだけじゃなくて、しっかり仕組みづくりも進んでいて、そういった経営側のバックアップがあるのは感じます。
竹林:
事業の早い段階から、法務や知財といった部門がサポートに入ってくれるんです。そうした部門と円滑な連携ができるというのも、経営がコミットしてくれているからですね。
金子:
経営という縦の視点でもそうだと思いますし、社内の横の人たちもすごくサポーティブなんですよね。ディスカッションする際も、ものすごく積極的にコメントをくれたりとか、いろんな知見をもらって、周りのみんなが応援してくれるような文化があるかなと思います。
竹林:
コミュニケーションのない組織からはモチベーションは生まれないんですよね。そして、モチベーションのない組織からはイノベーションは生まれない。コミュニケーションをいかに取っていくかというのを大事にしています。IXIには「バリューアップ会議」という文化があり、レビューや批評ではなく、「こうすればもっと良くなるんじゃないか」とお互いにアイデアを出し合う会議なんです。それをやり始めてからさらに加速していきましたね。
バリューアップという言葉は、IXIの皆さんへのインタビューでよく耳にします。
金子:
「バリューアップ」というカルチャーは、すごくIXIで大切にされていると思います。コンサル時代とは違い、疑問があればその場で何かコメントをもらおうと、積極的な姿勢で会議に臨めるので全くロスがないですね。
今江:
専門家の人の力を借りながら一緒にチームとしてやることが当たり前のようにできているのは、IXIらしさだと思いますね。
竹林:
上の人がレビューしてしまうと、違うんじゃないかと思っていても、ついその方向に答えを持っていこうとしてしまうんです。バリューアップのアドバイスの場合、その考え方もアリだなと自分で腹落ちできればやればいい。主体性にも繋がるこの仕組みは非常におもしろいですよね。
楽しみの掛け算こそ新規事業の源泉
最後に、IXIのバリューにちなんだエピソードがあれば教えてください。
河野:
事業を作る過程で、私が意識していたのは「スピード」です。モノを作っている会社は、外に自分たちの技術を出さないという社内に閉じた思考がすごく強いんです。昔はそれでよかったかもしれませんが、常に状況が変わる今の時代では、オープンにできる部分は他の人たちにお願いしていかないとロスも多いですし、時間もかかります。IXIではそこをうまく使い分けて動けているなと感じています。あとは、メンバーそれぞれが生き生きしていて、自律的に仕事をしているシーンが多いなと感じます。
今江:
それっていいですよね。新しいことにチャレンジしているので、うまくいかないことも多いです。日々、課題に邁進し続けているわけですから。金子さんも河野さんも、それを当たり前のことと捉えて、機動的に立ち回り、気がつけば、いつの間にか切り抜けているんです。自分で考えて、動いていける。そういう人の集まりが新規事業を創っていくんだなと思います。相乗効果で良い影響を受けて、さらに人を巻き込んでいく、楽しみの掛け算ですね。みんな頭は抱えているけれど(笑)、真剣に悩みながらも楽しんでやっていますね。
バリューの中の「+FUN!」の部分ですね。
金子:
IXIに入社以来、月曜日が苦痛じゃないんです(笑)。それってすごいことだなと思っています。
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