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肌で感じた現実と、探し続けるディーセント・ワークの未来像

オムロンから生まれた、社会的課題の解決に挑む事業創造プラットフォーム「IXI(イクシィ)」の組織や活動内容に迫るインタビュー企画。今回は、オートメーションの力で働きがいのある人間らしい仕事の創出を目指すべく、日々事業化に向けた検討を進めているIXIの3名に、プロジェクトの背景や展望を語っていただきました。

この記事の登場人物
丸雄崇史さん:IXIに入社後、自らディーセント・ワーク領域のプロジェクトを立ち上げ。
下総晃人さん:事業化検討を推進するプロジェクトマネージャー。パートナーとも協業しながら具体化を進める。
古賀達也さん:オムロンの研究開発部門出身。そのバックグラウンドを活かし、より現場に近いところでプロジェクトを推進。

組織名、役職などは取材当時のものです。

変わらない労働集約型の現場に変革を


まずは、IXIが掲げる旗(事業領域)のひとつである「ディーセント・ワーク」の中で推進しているテーマについて教えてください。

丸雄:
「オートメーションの力を使って、労働集約的な製造現場での働きがいのある人間らしい仕事の創出に貢献する」というパーパスのもと、様々な事業の検討をしています。縫製や食品加工といった現場は、まだまだ工業社会の姿を留めていて、安い賃金に依存したモデルで運用されています。オムロンが持つオートメーションの技術を使って、そんな現場を変えていきたいという想いからこの領域に旗を立てました。

下総:
ターゲットとするのは人の手に過度に依存した産業です。工場というと、ある程度自動化された環境の中で画一的に製品が作られているようなイメージかもしれませんが、まだまだ過酷な現場であるところが多いのが現実です。そういった工場で自動化を進め、人間らしく働ける環境づくりを進めていくことが大きなゴールではあるんですが、いきなり現場の仕事をロボットで代替するのも難しいので、徐々に自動化していく道筋をつけながら進めているのがこのテーマです。

この事業領域が解決する課題は何でしょう?

下総:
工場で働く方々は、長時間労働を強いられたり、ずっと立ち作業だったりと、非常に過酷な環境で働かなければいけないこともあります。このテーマに取り組むことで、そんな方々がもう少し健やかに働けたり、クリエイティブに仕事ができる未来をつくっていきたいと思っています。

古賀:
縫製などの業界は、これまで労働単価・賃金が低い国に工場の移動を繰り返すことで産業として成り立ってきたんですが、最終的にそういった国も賃金が上昇し、このままでは業界として破綻してしまうとも言われているんです。

丸雄:
それに伴い、人権侵害を行う企業への批判も高まってきています。企業活動が人権侵害につながってしまえば補償コストや罰金も発生しますし、そういった可能性のある企業への投資も避けられます。そういう人権侵害に関わる企業リスクの高まりも、このディーセント・ワークの旗の中で解決していく大きな課題かなと思います。

縫製のような業界にはまだDXのモデルケースが存在していないということでしょうか?

下総:
そうですね。縫製品も、産業用だと簡易的なロボットが入っているところはあるのですが、自動車のシートとかはまだ人がやっているような状況なんです。

ディーセント・ワークの検討が始まった当初から携わる丸雄さん


パートナーと協業し、新たな価値を創造


事業化を検討する中で、パートナーと共同開発もされたと伺いました。

丸雄:
オムロンの血圧計の腕帯の製造を委託している、あるパートナーからお話をいただいたことがきっかけです。次世代の縫製機の開発には、自社技術とオムロンが持つロボット技術や画像処理技術の組み合わせが必要というのが背景でした。ただ、IXIのミッションは新しい事業を創ることなので、単に開発を請け負うのではなく、これをきっかけに縫製の現場における新しい事業が考えられないかと思ったんです。調べていくと、先ほど言ったような社会的課題が見えてきたので、この目の前の課題に取り組むことが、将来的なより良い社会づくりに繋がるんじゃないかと考えたのが始まりですね。

具体的に、どのような取り組みをされているのでしょうか?

古賀:
いきなりロボットを導入して自動化するというのは難しいので、そもそも現場がどんなことに困っていて、何を提案すべきか探している状況です。現場に一番詳しいパートナーに情報をいただいたり、実際の現場を見せてもらったりしています。我々は現場に入りながらも少し俯瞰的に、現場の課題とビジネスをどう結びつけていくのかを考えている形ですね。

研究開発部門出身の古賀さん


現場を訪れて感じた大きな課題


事業を創る中で、IXIの強みになっていることは何でしょうか?

下総:
オムロンが持つ、ロボットの稼働や制御に関するデータをアセットとして利用できることですね。うまく使うことで、現場で価値のあるものが作れるんじゃないかなと思っています。この事業テーマに取り組む中で、オムロンの裾野はすごく広いなと感じています。例えばデータ分析にしても、AIを使った解析ができたり、製品だけではない部分の経験なども非常に役に立っています。

事業を進めていく中で苦労したことはありますか?

古賀:
現場の真の課題の特定ですかね。表面的な課題に対する解決策は、もうすでに多くの人が気づいて試している状況ですし、それだけだとビジネスに繋がっていかないんですよね。もっと奥に隠れている深層課題を見極めないといけないのが難しいところです。現場をしっかりと見て、議論して、新たな仮説を作り、本質的な課題に近づいていく…の繰り返しですね。

様々な現場への視察にも行かれたと伺いました。

丸雄:
はい。私は東北のとある工場に行ったのですが、本当に皆さん朝から晩まで休みなく働かれていて、日本でもまだこんな過酷な現場があるんだと実感すると同時に、自分たちが解決しようとしていることが間違っていないという確信も持てました。

古賀:
私と下総さんはベトナムに視察に行きました。やはり皆さん大変な環境で働かれていて衝撃を受けましたね。本当に過酷な現場なんだなということを身をもって知りました。

下総:
ベトナムでは1週間毎日工場に通い、その中でいろいろな企画を詰めていきました。ストップウォッチで作業の時間を測ってみたり、有識者に説明してもらいながら現場でリアルタイムで起こっていることをとにかく吸収するようにしました。現場作業だけでなく、どういうビジネスプロセスで工場が動いているかも把握するように心がけましたね。余談ですが、ベトナムに行きたいと話したときも、すぐに実施が決まりスムーズに送り出してもらえたのはIXIらしさなのかなと思います。

現段階で壁を感じていることはありますか?

丸雄:
ROI(投資収益率)が必ずネックになってしまうところですね。自動化がすでに進んでいるのは製品として付加価値の高い自動車などの業界なので、ROIが成立する世界なんです。一方、縫製などの現場ではROIが合わないから自動化が進まず、自動化しないので技術革新も生まれない、という負のループが生まれていて。ここにブレークスルーを起こさない限り、パーパスだけではどうにもできない世界なんだなと痛感しています。

下総:
私も、自社だけで取り組むには非常に難しいテーマだと感じています。業界ごと変わっていかないといけないとすると、パートナーとの共創や、時代の潮流が必須ですね。

プロジェクトマネージャーの下総さん


今後のモデルケースを作るために


これからの抱負を聞かせていただけますか?

丸雄:
これまでディーセント・ワークに関わり続けてきた中で、共感の声がどこからも必ずあったので、パーパスとしては間違っていないんだという確信は持てています。一方で、まだどこも事業化に成功していないということは、実現にこぎつけるのが非常に難しい世界なんだなとも身をもって感じています。ここからは下総さんや古賀さんたちと一緒に、理念の話だけではなく、リアルな事業仮説を作っていかないといけないな、と強く感じています。

下総:
今までIXIで4つほど新規事業の検討に携わってきたので、他の事業でやってきたアプローチをうまく取り入れながら、成功確度を高めていきたいと思っています。今後のモデルケースを作っていきたいですね。

古賀:
今まで考えてきたコンセプト自体は進めていきたいと思う一方で、課題も多く、すぐ前に進める状況でもないので、そこはもう一歩頑張らないと、と思っているところです。

そんな中、今はどういったことを検討中なのでしょうか?

丸雄:
一度、縫製業界から視点をずらして、外食産業の方に目を向けてみようと話しています。外食産業も労働集約型で、賃金を低く抑えようという業界なので、縫製業界と非常に似ているんです。一方で、一部にはすでにロボットが導入され始めていて、少しずつ自動化が進んでいます。その背景や、技術的要因だったり、ビジネスモデルをどのように作っていったのかなど、話を聞きに行くことも始めています。他の業界に目を向けることで、手がかりを掴んでいきたいですね。

下総:
ここ半年ほど、現場やパートナーさんと課題をずっと詰めてきたんですが、もっとIXIとしてディーセント・ワークという社会的課題に対してどんなアプローチができるのか、構想段階でしっかりとPDCAを回しながら、テーマの具体を捉えていきたいと思っています。


リアルな現場が物事の出発点


事業を進める中で、心がけていることはありますか?

下総:
やっぱりリアルな現場が物事の出発点かなと思っていて。現場の実態や困りごとをよく知る人と一緒にプロジェクトを進めていくことは大切にしています。

古賀:
私が心がけているのは「主体性」です。IXIって特殊な組織で、皆さんいろんな観点があって、違った得意分野を持つ中で、それぞれが主体的に動いて個々人が持つ力を発揮する。そこから相乗効果が生まれていくのがいいところだと思っています。

丸雄:
私はこのテーマを長い時間軸で見るようにしています。1年とか2年でできるのであれば、とっくに誰かがやっているだろうし、そこで諦めてしまえば、これまで挫折してきた企業と同じようになってしまうので。短期的な成果よりも中長期的に何かを成し遂げるという気持ちで臨んでいます。なかなか前に進まないこともありますが、悲観的ではないですね。

普段働く中で実感する、IXIのバリューとは何でしょうか?

古賀:
「スピード」と「ゲンバ」かなと思っています。計画を着々と立てて、というよりは、工場に行くにしても、決まってから1週間以内にはもう現場に向かってる、みたいに。あとは、行き詰まっても毎週何かしらの納期を設定して、スピードを保ちながら進んできたので、そういうところでスピード感があるな、とは感じています。

下総:
私は「Try & Learn & Share」だと思っています。事業検討自体、白紙のところから始まったので、いろんなことを議論しながら試行錯誤的に仮説を磨いていきました。あとは「エンパシー」ですかね。なかなか物事がうまく進まないときは、IXIの他のチームのメンバーに課題の整理やアプローチの方法で相談に乗ってもらい、助けてもらいました。

丸雄:
2人が言ったバリューはまさしくその通りだなと思っていて、付け加えるとしたら「+FUN!」ですね。うまくいかなかった場面でも、古賀さんと下総さんは明るいムードで仕事に取り組んでいたし、それがメンバー全体にも伝わって。大変なことも多いですが、いつでも前を向いて推進していけたのは、このディーセント・ワークのプロジェクトチームならではの姿勢だなと思っています。


社会的課題と向き合い、ゼロから事業を考える


IXIで働くために必要なスキルやマインドセットはありますか?

下総:
やはり社会的課題をどう解いていくかに興味がある方と一緒に働きたいなと思っています。

古賀:
先ほど言ったことと被りますが、主体性が大事かなと思います。情報が増えると、仮説もどんどん変わって、常にやることを自分で改めていかないと追いつかないスピードだと思うので、前に進めようと思う気持ちと、何をしたらいいか自分で考えられる力が重要なのかなと思ってます。

丸雄:
技術とビジネスを理解している人に来てもらいたいですね。技術だけだと発想も偏ってきちゃいますし、ビジネスだけでもあまり具現化していかないので。技術とビジネスの両方でバランスが取れる方がいたらいいなと思います。

最後に、IXIで働く魅力について教えていただけますか?

下総:
社会的課題を長いスパンで解決するための事業を考えていけることですね。IXIでは、他のチームだったり、研究部門とコミュニケーションしながら、お互い助け合える環境で物事を進めていけるのがおもしろいなと思います。

古賀:
自分の構想に沿って実際に自ら事業を作っていけるという、貴重な体験ができるところが魅力だなと思います。自社製品の延長線上で事業を考えるのではなく、社会的課題からまっさらな事業を考えられるところも魅力ですね。


オムロン株式会社 イノベーション推進本部(IXI)が挑戦する事業領域やディーセント・ワークについては、以下の公式ページをご覧ください。